古文対策問題 002(枕草子「うれしきもの」)
【本文】
うれしきもの。賀茂の祭の御馬の足疾く走るを見て、我が思ふさまに人々のののしるを聞くは、うれしきものなり。
また、朝まだき門たたく音におどろきて、文ありけりとて、取り入るるに、あらぬこと書きてはあらず、いみじく思ひのごとく書きてあるは、うれしきものなり。
又、月ごろ思ひつづけたる事など、人の心にも知られぬほどにかなひぬるは、いみじううれし。
【現代語訳】
うれしいこと。賀茂の祭の馬が速く走るのを見て、自分が願っていた通りに人々が大声で騒いでいるのを聞くのは、本当にうれしいものだ。
また、朝早く門をたたく音に目を覚まして、手紙が届いたというので取り入れると、期待はずれなことが書かれているのではなく、まさに自分が思っていた通りのことが書かれているのは、やはりうれしいことだ。
さらに、何ヶ月も思い続けていたことが、誰にも知られずに思い通りに叶ったときは、この上なくうれしい。
【覚えておきたい知識】
文学史・古文常識:
- 作者:清少納言(せいしょうなごん)。平安時代中期の女流随筆家・歌人。藤原定子に仕え、『枕草子』を著した。
- 作品:『枕草子』は、日々の出来事や感想を題材にした随筆。自然・人間観察・感情など多様なテーマを扱う。
- 賀茂の祭:京都・賀茂神社(上賀茂神社・下鴨神社)の例祭。平安時代には宮中でも大変重要な年中行事であった。
- 御馬(みま):祭の主役である馬。足の速さなどを人々が見て楽しむ。
重要古語・語句:
- ののしる:大声で騒ぐ、盛んに評判する。
- 文(ふみ):手紙。
- いみじく:たいそう、非常に。
- 思ひのごとく:自分の思い通りに。
- 月ごろ:何ヶ月もの間。
- かなふ:願いが実現する、思い通りになる。
- いみじう:「いみじく」のウ音便。非常に、たいそう。
【設問】
【問1】本文で述べられている「うれしきもの」として、筆者が最も重視している共通点は何か。一つ選べ。
- 自分の考えや期待が、まさにそのまま現実になったとき。
- 大勢の人に褒められたり認められたりすること。
- 朝早く目覚めて良い知らせを受けること。
- 家族や友人と楽しく過ごすこと。
- 季節ごとの自然や行事を味わうこと。
【問1 正解と解説】
正解:1
いずれの例も、「自分の願いや期待」が「まさにその通り叶った」ときの喜びが描かれている。偶然や他者からの評価ではなく、「自分の思い」が現実になることに筆者は最も大きな喜びを感じていることが読み取れる。
【問2】「ののしる」の意味として最も適切なものを一つ選べ。
- 悪口を言う
- 大声で騒ぐ・盛んに評判する
- 密かに噂する
- 静かに見守る
- 困惑する
【問2 正解と解説】
正解:2
古語「ののしる」は、現代語の「罵る(ののしる)」とは意味が異なり、「大声で騒ぐ」「盛んに評判する」「褒めたたえる」などの意味で使われる。本文では祭りの馬に対して人々が大声で賞賛している様子を指す。
【問3】本文の「朝まだき門たたく音におどろきて」とあるが、「おどろく」の意味として最も正しいものを選べ。
- 驚く・びっくりする
- 目が覚める・起きる
- 戸惑う
- 慌てる
- 考え込む
【問3 正解と解説】
正解:2
古語「おどろく」は、現代語の「驚く」とは異なり、「はっと気づく」「目を覚ます」という意味でも用いられる。本文では「門をたたく音で目が覚めて」という文脈で使われている。