1.3.5.2 動摩擦力 (Kinetic frictional force) ~滑っている間も働くブレーキ役~
動摩擦力って、どんな力?
前のページでは、物体が動き出すのを防ぐ「静止摩擦力」について学んだね。 今回は、物体が実際に滑り出した後に働くもう一つの摩擦力、動摩擦力 (Kinetic frictional force または Dynamic frictional force) について見ていこう!
例えば、スケートリンクで滑っていると、何もしなくてもだんだんスピードが落ちて止まっちゃうよね。机の上で消しゴムを滑らせても、いつかは止まる。 このように、物体が他の面と接触しながら実際に滑って動いているときに、その動きを妨げるように働く摩擦力のことを「動摩擦力」と呼ぶんだ。
図1:氷の上でも、動摩擦力が働いてだんだん止まる。
動摩擦力は、まるでブレーキのように、物体の運動のエネルギーを熱エネルギーなどに変えながら、動きを邪魔する働きがあるんだ。
動摩擦力の3要素:どこに、どっちへ、どれくらい?
動摩擦力の「作用点」「向き」「大きさ」はどうなるかな? 静止摩擦力と比べながら見ていこう!
1. 動摩擦力の作用点:どこに働く?
動摩擦力の作用点も、静止摩擦力と同じで、物体と面が接触している面 (Contact surface) だよ。 力の図示では、接触面の中央あたりに作用点があるとして描くことが多いんだ。
2. 動摩擦力の向き:どっちの方向? 滑っている向きと常に反対!
動摩擦力の向きは、とってもシンプル! 物体が滑っている向きとは常に反対向きに働くんだ。 物体が右に滑っていれば左向きに、左に滑っていれば右向きに、斜面を下に滑っていれば斜面に沿って上向きに、という具合だね。
図2:動摩擦力の向きの例 (赤い矢印 $f_k$)
3. 動摩擦力の大きさ:ほぼ一定! $f_k = \mu_k N$
静止摩擦力の大きさは加える力によって変わったけど、動摩擦力の大きさはもっとシンプル! 物体が滑っている間の動摩擦力の大きさは、なんと(高校物理の範囲では)ほぼ一定と考えるんだ。そして、その大きさは次の式で表されるよ。
動摩擦力の大きさ $f_k$ [N] = 動摩擦係数 $\mu_k$ $\times$ 垂直抗力の大きさ $N$ [N]
$$ f_k = \mu_k N $$
それぞれの文字の意味はこうだよ。
- $f_k$:動摩擦力の大きさ(単位はニュートン N)
- $\mu_k$ (ミューケイ):動摩擦係数 (Coefficient of kinetic friction)
- これも静止摩擦係数と同じように、接触している2つの面の材質や状態によって決まる値で、単位はないよ。
- $N$:物体にはたらく垂直抗力 (Normal force) の大きさ(単位はニュートン N)
つまり、動摩擦力の大きさは、垂直抗力 $N$ と動摩擦係数 $\mu_k$ が分かれば計算できるんだ。 そして、大事なのは、物体が滑っている速さ (Speed / Velocity) には(高校物理では)ほとんど関係なく、ほぼ一定 (Constant) の大きさだと考えること。ゆっくり滑っていても、速く滑っていても、動摩擦力の大きさは同じ $f_k = \mu_k N$ で計算するんだ。 (※実際にはとても速い速度だと少し変わることもあるけど、高校物理では一定として扱うよ。)
また、一般的に、同じ面の組み合わせなら、動摩擦係数 $\mu_k$ は静止摩擦係数 $\mu_s$ よりも小さいか、等しい ($\mu_k \le \mu_s$) ことが多いんだ。 これは、「一度滑り始めたら、動き出すときよりも小さい力で滑り続けさせることができる」という経験とも合うね。
【例題】前のページの例題の続きだよ。水平な床の上に質量 5kg の物体が置かれていて、物体と床の間の静止摩擦係数は $\mu_s = 0.5$、動摩擦係数は $\mu_k = 0.3$、重力加速度は $g = 9.8 \text{ m/s}^2$ だったね。この物体が床の上を滑っているとき、物体に働く動摩擦力の大きさ $f_k$ は何Nか?
【考え方】
まず、垂直抗力 $N$ は、静止しているときと同じで $N = mg = 5 \text{ kg} \times 9.8 \text{ m/s}^2 = 49 \text{ N}$ だね。
物体が滑っているときに働く動摩擦力の大きさは $f_k = \mu_k N$ で計算できる。
$f_k = 0.3 \times 49 \text{ N} = 14.7 \text{ N}$。
【答え】14.7 N
(この動摩擦力の大きさは、物体がどんな速さで滑っていても、基本的にこの値になるよ。)
動摩擦力の図示に挑戦!
動摩擦力の「向き(滑る向きと反対!)」と「大きさ(ほぼ一定!)」を意識して、図示する練習をしてみよう! 下のアプリでは、箱が床や斜面を滑っている様子を表しているよ。それぞれの状況で動摩擦力がどう働くか、矢印でイメージしてみよう。 (このアプリでは、動摩擦係数 $\mu_k$ と垂直抗力 $N$ から計算された動摩擦力の矢印を自動で表示するよ。垂直抗力は重力とつり合っている簡単な場合を想定しているよ。)
物体は右方向、または斜面下向きに滑っていると仮定するよ。
摩擦力のまとめ と 次のステップへ
これで、「静止摩擦力」と「動摩擦力」の2種類の摩擦力について学んだね! もう一度、特徴を比べてみよう。
特徴 | 静止摩擦力 ($f_s$) | 動摩擦力 ($f_k$) |
---|---|---|
働くとき | 物体が静止していて、滑り出そうとするとき | 物体が実際に滑って動いているとき |
向き | 滑り出そうとする向きと反対 | 滑っている向きと反対 |
大きさ | 加えた力に応じて変化 ($0 \le f_s \le \mu_s N$) |
ほぼ一定 ($f_k = \mu_k N$) |
速さとの関係 | 関係なし | (高校物理では)ほぼ関係なし |
係数 | 静止摩擦係数 $\mu_s$ | 動摩擦係数 $\mu_k$ (一般に $\mu_k \le \mu_s$) |
摩擦力は、私たちの身の回りの現象や物理の問題を考える上で、とっても重要な力だ。 特に、静止摩擦力と動摩擦力の区別、そしてそれぞれの力の大きさがどう決まるかをしっかり理解しておこうね!
さて、これで第1章で紹介する「基本的な力」は一通りおしまい! 重力、垂直抗力、張力、弾性力、そして摩擦力。これらの力の特徴を掴めたかな? 次のセクションでは、これらの力を見つけ出し、正しく図示するための「コツ」をまとめていくよ。そして、いよいよ第2章では、これらの力を使って物体の運動がどうなるのか(力のつりあいや運動方程式)を学んでいくことになる。ますます物理が面白くなるぞ!